Out East by The Smallest Town Ensemble

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高揚感。このThe Smallest Town Ensembleのデビュー・ミニ・アルバム「Out East」は、インディーポップが好きな人だったらチェックしておいても絶対に損はない。何食わぬ顔でこの音源の前を素通りして、ここから何年かのちに「もっとはやく聴いておけばよかった・・・」なんて、そんな勿体ないことはやめようよ。ジャケの60年代風味のレタリングを見てピンと来て手を伸ばす人は一定数いると思うけれど、このミニ・アルバムはWeb上でも全然話題にすらのぼっていないし、なんのプロモーションにも頼らずひっそりとBandcampで公開されてほんの極一部の好事家たちのライブラリーに収まってそれで終わり、そんな風にこれだけの高品質な音源が歴史に埋もれてしまうのは、ポップ・ミュージックにとって、これまで何千何万回と繰り返されてきた「損失」だ。だから、たまたま耳にした僕のような人間が誰かに語っていかないで、どうするよって話だ。

The Smallest Town Ensembleは米マサチューセッツ州サマービルのインディー・ポップ・バンドCat Sounds(Facebook)のキーボード/トランペット奏者であるMatt Bowkerによるユニットで、このユニットについての詳細は明らかにされていないながらも、Cat SoundsのメンバーのうちG/VoのCurtis WyantとB/VoのMary Flatleyが本作に参加していたり、The Smallest Town EnsembleとCat Soundsとのカップリングで一緒にライブをやったりしていることから類推するに、このThe Smallest Town EnsembleはパーマネントなバンドというよりもMatt BowkerがCat Soundsと並行して活動していく一時的なプロジェクトではないかと思われる。Cat Soundsについては2枚のEPを2012年と2014年に発表していて、どちらも彼らのBandcampにてname your priceで公開されているのでそちらを。The Smallest Town Ensembleに比べるとよりモダンな音楽からの影響下にあるインディーポップで、すごくいい。
さて、このミニ・アルバム「Out East」について。一聴してその格調高いソング・ライティング・スキルに驚かされる。とにかく楽曲のクオリティーがずば抜けている。現行のバンドだとLeisure Society、Belle and Sebastianあたりが引き合いに出されるのではないかと思うのだけれども、Leisure SocietyやBelle and Sebastianが極めて「英国的」なソング・ライティングを基調としているのに対して、The Small Town Ensembleはガーシュインやバカラック&デヴィッドなどから連なるアメリカのポップ・ミュージックのトラディションを受け継ぐ存在であり、本作においてはインディーポップ然とした装いでもって60年代後半~70年代前半のグッド・タイム・ミュージック、たとえばThe Fifth Avenue BandやThe City/Jo Mama、Eric Kazの1stとか、などのプロダクションを明らかに下敷きにしているという点から考えれば、その楽曲の根本的な体質からして異なるように思える。(アルバムのタイトル・ナンバー、Trk-2の”Out East”の、ペダル・スチールを効果的に配置したカントリー・ロック的な前奏部から中盤以降でのトランペットが鳴り響く展開・構成は、そういったアメリカン・ポップ・ミュージックとベルセバ的なインディーポップとの「折衷」として聴いてみると非常に興味深い)
「Out East」の洗練された音楽性を前にして、安易に渋谷系云々といった文脈で語るのはちょっと違うかなと僕は思う。ただ、音楽を聴いてああでもない、こうでもないとリスナーの僕らが語ること、それはもう各々の自由なんだし色んな考えや意見があるからこそ楽しいっていう。そんなこと言ってる僕だって、大概適当なことや嘘ばっかいつも並べてんだから。
僕がこの音源に惹かれたのは前述したグッド・タイム・ミュージック的なプロダクションによる部分が大きい。90年代の終わり、ネオアコやギターポップのルーツとして僕は60~70年代の音楽に足を踏み入れて、ちょうどワーナーのCD再発シリーズ「名盤探検隊」がはじまったのも大きかったのだけれども、そこらの街のCD屋ですらそのテの名盤の類が入手できるという環境が整備されてきて、気がついたら僕はネオアコのルーツ云々抜きにそういった盤に夢中になっていた。上記したバンドやLovin’ Spoonful(やEven Dozen Jug Band)、Stephen Stills Manassas、Flying Burrito Brothers・・・いや、ブリトーズというかグラム・パーソンズ!もちろん、後期Byrds!この辺は挙げていったら本当にキリがない。で、当時の友人にソフト・ロックにどっぷりと浸かっている人間がいて、彼に導かれるままにハーモニー・ポップを聴くようになって、最終的にはBeach Boysの未完成のアルバム「Smile」のブート盤を西新宿で買い漁りつつ、「Smile」に関する文献に片っ端から目を通して自分の脳内で「Smile」の再構築作業に勤しむといった暗いなんてものじゃない青春時代に僕は突入するのだけれど。あの頃に夢中だった音楽がまるで2016年に蘇ったかのような感触を覚えて、っていう僕のノスタルジーを「Out East」が直撃したっていうのはたしかにある。まあ、そもそもなんで僕がさほど面白くもない昔話を始めたかというと、そういったリスナーひとりひとりの異なったバックグラウンドや趣味嗜好、感性、そういったものをこの「Out East」は当然のごとく認めて受容するような音楽だと思うから。僕の場合は「Out East」への入り口は間違いなくノスタルジーだったけれども、あなたの場合はどうか。きょうはじめて聴いたばかりなのに、昔からずっと聴いていた盤のようにしっくりくる本作は、もともとそうであったかのように僕の生活のうち大事な部分を占領することになりそうだし、こんな音源と出会えた今年の春は思っていたよりも素敵なものになりそうな、そんな気がしている。
カテゴリー: Indie, indie pop パーマリンク

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