Gray Sky by johnny goth

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カリフォルニア州バーバンクのニューカマー、johnny goth(FacebookSoundcloudTumblr)の1stアルバム「Gray Sky」が、現在のインディー・ミュージックを愛聴する人たちにどのように受け入れられるか僕には正直なところ皆目検討もつかないのだけれども、少なくとも、僕にとっては言葉に詰まるくらいに感動的な作品だ。

このjohnny gothは僕がこのエントリーに向かっているいま現在、彼のFaccebookページのいいね!数がたったの1名(←僕です)という、本当に無名のアーティストで、彼についてのインフォがまるでない状態。彼のBandcampのレコメンドには「I play geetar with this great groupa guys.」という一文とともに同郷のPile of Napkins(FacebookSoundcloud)というバンド「shitty music EP」という作品がチョイスされているが、そのPile of NapkinsのFBページやBandcampなどにもjohnny gothという名前がクレジットされていないため、そのPile of Napkinsのメンバーによるプロジェクト的なものなのか、単にゲスト参加してギターを弾いたということなのかまったくわからないのだけれども(注・彼のTumblrにて本人に確認したところ、彼はPile of Napkinsの一員であるという回答が帰ってきたこおとをここに記しておく)。

アルバムのオープニングトラックの、ベッドルームの外で鳴っている雨の音がそのままトラックに収録されてしまったかのような冒頭から、チープなシンセの和音とメロディー、Voが響き渡る”lights out”、カセットテープをデッキに差し込んで再生するギミック(これを僕は彼のカセット・カルチャーへの敬愛を表現したものと受け取ったのだけれども)からスタートする短編”scary movie”の時点で本作品はパーフェクトと言っていい。lo-fiなタイトル・ナンバー”gray sky”、インディー・ポップ然とした”some kind of goth”、再び雨の音からスタートして、ローズ・ピアノの音色が美しいアコースティック曲”lost in the night”、エレクトリック・ギターのアルペジオとほとんど和声のみで進行していく”we are gonna die”、C86的なインディー・ポップのラスト・ナンバー”fade away”と、収録曲すべてが端正で瑞々しく、arrangeのアンビエントR&Bをlo-fi的に解釈したベッドルーム・ポップというか、彼が強く影響を受けたであろうAlex GやComa Cinema/Elvis Depressedly、Ricky Eat Acid/Teen Suicide/Julia Brownなどのアーティストたちの作ってきた時代の、まさにそれ「以降」の音楽。本作は上記したようなアーティストたちからのインフルエンスを消化して新たな音楽をクリエイトしている次の世代がもうすでに現れているということを示すもので、上記したようなアーティスト群を追いかけていた僕のような人間にとっては、感慨深いものがある。加えて、アルバムのシークレット・トラックとしてBandcamp上のストリーミングでは公開していないカバー曲が収録されているのだけれども、ここでタネ明かしをするのも野暮であるように思うので、是非音源をダウンロードして聴いてみてください。なお、本作はカリフォルニアの新興カセット・レーベルcellar door tapes(FacebookTwitterTumblr)から限定10本でカセット・リリース(Link)もされていて、これを書いている時点で残り2本となっているので、カセット・フリークスの方々は是非。cellar door tapesは僕もつい最近知ったばかりなのだけれども、エクスペリメンタル系を中心にクールな音源をカセット・リリースしているクールなレーべルなので、興味を持たれた方はそちらのほうもチェックしてみるといいのではないかと思います。

僕はこのブログをはじめた3年前、Ricky Eat AcidでありComa Cinema/Elvis Depressedlyや現在R.L.Kelly名義で活動をしているRachelの在籍していたKiss Kiss Fantasticなどの音楽に本当に夢中だった。彼/彼女たちがレーベル、メディア、ブログ、リスナーたちと同じ視線の高さでもって、お互いがお互いにリスペクトしあっている光景は「インディー」のユートピアのように思えてならなかったし、ひとりひとりの力は微力でもその「シーン」にいる人間たちが皆で協力しあってなにか特別なこと(それは決して大袈裟ではなく、自分たちの手でこの世界を変えよう、この世界に大きな傷跡を残そう、ということだったのだと思う)をしようとしている光景は本当に魅力的に映った。世界各地で偶発的に・・・いや、むしろ音楽の流通がフィジカルからデータへと大きく移行していったということ、BandcampやSoundcloudなど配信元にとってリスクの少ない音楽プラットフォームが整備されていったことなどを鑑みるとそれは「時代の必然」であったというべきか、同時発生的に勃発した数多くのカセット・レーベルによるカセット・カルチャーは、確実に彼らの活動を後押ししていた。ほとんどのカセット・レーベルのリリースが極めて小ロットによるもので、なかには限定5本なんてものもあったけれども、実際にはその数量ですら売り切れずにレーベル側で長らくストックになっていることもしばしばだった。いまだからこそ「カセット・カルチャー」は肥大化していってここ日本でも取り上げられる機会も増えたし、その認知度は格段に増したのだろうけれども、当時はそんなものだったんだよ。だから、僕みたいなどこの馬の骨ともわからない日本人が、ある時期から突如としてそこいらのレーベルやアーティストのカセットを買いまくっているのを、海外のそういったシーンの中にいる人たちが目撃したとき、最初は「なんか変な日本人がいるぞ」くらいの感覚だったのではないかと思うのだけれども、僕の国籍も性別もバックグラウンドも一切関係なく、非常に友好的に迎え入れてくれた。僕はあのとき、海外で起きていた現行のインディー/DIYの一員だった。2014年初頭に、そんな僕らにとって本当に衝撃的な、生涯忘れ得ないほどのリリースがある。Orchid TapesからリリースされたRicky Eat Acidの「Three Love Songs」だ。Ricky Eat AcidことSam Rayの追求していたローファイでエクスペリメンタル的な志向性を幾分か和らげて、彼の最大の魅力であるサッドなビジョンをアンビエント/エレクトロニック・ミュージックに込めた傑作中の傑作である。これは、みんなが大好きだったRicky Eat Acidの初のヴァイナル・リリースであるだけでなく、僕らの「インディー」が確実に次のステップへと移行することを意味していた。その事実に僕らは震え、狂喜した。アルバムはPitchforkにレビューが掲載され、ヴァイナルの初回プレス250枚は即日完売、急遽用意されたセカンド・プレスもすぐに売り切れ、ebayなどで高値で出品されるという事態にまで発展することとなった。当然だ。あのアルバムには、それだけの「価値」があったのだから。僕は「Three Love Songs」の初回プレス盤の購入者のなかから5人にのみ配布された、アルバムのテスト・プレス盤を所有している。件のアルバムをファースト・プレス/セカンド・プレスと色違いで計4枚購入した僕へのプレゼントだったのか、ただ単に購入者のなかからランダムにセレクトされたものなのか定かではないけれども、Orchid Tapes主宰のWarren Hilldebrand(Foxes In Fiction)に何度か「いつもサポートしてくれてありがとう」といった言葉を頂戴している身としては、彼に確認するのも無粋な気がしてそれについては尋ねてはいないけれども、「そういうこと」だったんだと思っている。

いま現在、僕は以前ほどカセットを購入していないし、現在のカセット・カルチャーにコミットしているとも思っていない。いくつかのレーベルやアーティストたちとは変わらずに密なやり取りをさせていただいているけれども、現在この日本で、もちろんそれは日本に限ったことではないのだけれども、「カセット・カルチャー」と言われているものは僕の知っているそれから大いに変容を遂げてしまったし(その是非をここで問うつもりはまったくないけれど)、僕はもう「カセット・カルチャー」の一員ではないということ。僕はそれで構わない。僕は僕で、あのムーブメントから受けた熱を胸に大切にしまって生きていくのだから。それでも、このjohnny gothによる「Gray Sky」のような、あの頃のカセット・カルチャーから産み出されたものの影響を強く受けて、その想いを継承してさらに新しい音楽へと向かっている、そんな作品が聴けるというのは本当に幸福なことだ。僕は、このアルバムを聴いて、色々な想いが心底報われた気がしている。この作品との出会いに最大の感謝を。ありがとう。

カテゴリー: bedroom pop, folk, indie pop, lo-fi パーマリンク

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